『孕ませハッピーバレンタイン』
▼▼▼ その2 ▼



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御神「いや〜、エラい目にあったぜ……」
結局、紅葉と絵留々、それにリゼのチョコも平らげたが、その分のカロリーは月衛をカカオの牢獄から救出するのに消費された気がする。
???「なんだ、お前? 元気なさそうな顔して……腹減ってるのか?」
廊下を歩いていると、どこからとも無く声が聞こえてきた。
御神「誰だ!? “ゴレゴム”の仕業か!?
廊下には俺の他に誰もいない。

???「ココだ、ココ」
コンコンと音がした方を向いてみれば、ロープにぶら下がったおさげ髪の女の子が外から窓を叩いていた。
御神「花梨先パイ! 何してるんですか!? ココ、三階っ!」
慌てて窓を開けると、花梨先パイはブランコのように反動をつけ、廊下に飛び降りた。

花梨「よっ……と」
(おっ、今日も縞パンか♪)


フワリとスカートが舞い、一瞬スカイブルーの縞々が露になったのを見逃さない。
年上とは思えないほど、実によく似合っている。

しかし、そんなことを思わず本人の前で言おうものなら、たちまち謎の日曜大工生命体のミョルニルに石臼で挽かれた抹茶のようにされてしまうことは想像にかたくない。
花梨「何って……冒険だよ、冒険。リペリングは基本中の基本だろ?」
悪びれることも無く、八重歯を覗かせる三年の先輩。
(いや、花梨先輩って水泳部じゃん
“プールサイドのフェアリーペンギン”こと、花梨先輩は昔から冒険が大好きで、俺もよく地下迷宮や人外魔境に連れてかれる。
(しっかし、聖蓬学園の敷地が無駄に広くて良かった〜)
これが普通の学校だったら、ご近所に通報されかねない。
俺が一人胸を撫で下ろしてると、花梨先パイはポケットから携帯食糧のようなものを取り出した。
花梨「ホラ、お前も食え」
無造作に放り投げられたそれをキャッチする。
シンプルな銀の包装は英字だらけで、バーコードすら表記されていない。
唯一『Chocolate bar』とだけ読み取ることが出来た。
御神「へぇ〜、花梨先パイでもバレンタインとか、ちゃんと気にしてるんですね」

花梨「バッ! そんなんじゃねぇよっ! 栄養補給だっ、栄養補給! 先輩として、シケたツラしてる後輩を気にかけるのは当然だろ!?」


そう言って、バリボリとチョコバーを噛み砕く小っさい先輩。
それが小さな子の照れ隠しのように見えて、年上相手に微笑ましく思ってしまう。
御神「じゃあ、遠慮なく……パクっ」

――ガキンっ!

瞬間、ヒトの食べ物として、あり得ない音が口の中から聞こえた。
御神「はりんへんふぁい。ホレ、なんれふか?」
思わず、入れ歯を無くしたお爺ちゃんのような口調になってしまう。

花梨「何って……MIL(軍用規格)決まってるだろっ。砂漠だろうが、ジャングルだろうが、絶対に溶けないスッゲーチョコだぞ?」
花梨先パイの八重歯は負けることなく、ガキン、ゴキンと鉄のようなチョコを噛み砕いている。
(先輩の歯は、
タングステンでできてるんですか?  ※タングステン→戦車の砲弾(APFSDS弾)の弾芯等に使用されている固い金属)
よく見れば、包装紙には『Army』『Ration』の文字が並んでいた。
(MILスペック(軍用規格)にしても、か、固すぎましゅ……? きっとこのチョコレート
防弾仕様に違いないな……)
花梨「このチョコさえ食べてれば、1日戦えるぞ? なんてたって、2000キロカロリーだからな♪」

御神「ブホっーーー!!」

瞬間、俺の鼻から紅い虹が弧を描いたのだった。

◆◇◆
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ののみ先輩から貰った『DABA』を親指で弾き、宙にヘアピンを描いて戻ってきたところを口でキャッチする。
御神「……うん、
フツーのチョコがこんなにウマいとは知らなかった」
耐熱性とカロリー摂取を第一に作られている軍用チョコを食べた後だと、何気ないチョコでも美味しく感じられた。
幸い、甘いものは好きなので、花梨先パイの
『軍用チョコバー鼻血ブー事件』でカカオがトラウマになるようなことはない。
むしろ、毎回食べた分以上にカロリーを消費しているのは気のせいだろうか?

雪姫「あら、御神先輩もチョコをもらったんですね」
飲み物が欲しくなって購買部に立ち寄ろうとしたら、後ろから透き通るような声をかけられた。


御神「なんだ雪姫、部活はいいのか?」
慶光院のお嬢様ともあろう者が、悩殺テニスウェア(俺ネーミング)”のままで校舎内をうろついてるなんて珍しい。
タイトなテニスウェアが雪姫のモデルのようなグラマラスボディをより強調している。

雪姫「お気になさらず……昼休みも放課後も、フラりとどこかへ行ってしまわれた保健の先生を探していた、なんてことはありませんから……」
いつものように不敵で素敵な微笑みを絶やさず、けれどどこか不服そうに言葉を返す雪姫嬢。
御神「そうか、俺を探してくれていたのか」
完全無欠のお嬢様の可愛らしい綻びを見つけたみたいで、思わず頬が緩んでしまう。

雪姫「そ、それよりも御神先輩? わたくしが投げても受け止められますか?」
磨きぬかれた宝石のような瞳を悪戯っぽく細める雪姫。
どこから取り出したのか、その手にはチョコレートの箱が握られていた。
御神「よっしゃ、バッチ来い!」
雪姫とは子どもの頃から勝負事ばかりしているせいか、パブロフの犬的にその挑戦を受けて立つ。

雪姫「行きますよ……はいっ!」
(なんの! これしき!)
雪姫の手から離れたチョコボールは、テニスのロブのように山なりの放物線を描いて俺の口に吸い込まれた。

雪姫「流石ですわ、御神先輩。では、これはどうかしら……はいっ!」

――ヒュンっ!

「!?」
まるで、スマッシュのような鋭い軌道で、チョコが降ってきたところを文字通り喰らいつく。

雪姫「うふふっ……それでこそ御神先輩ですわ。さぁ、どんどんまいりますわよ」
(いかん、雪姫の何かのスイッチを押してしまったらしい)


何でも天才的にこなすからこそ、いつも競争相手に飢えている雪姫の闘争心に火が点いてしまった。


――ヒュンっ! ブォンっ! ズドンっ!

御神「はぁっ!……とぉっ!……やぁっ!!」
スライス、ドライブ、スネイクと、ただチョコレートボールを投げているとは思えない多種多様な球種はまるで千本ノックだ。
(だが、まだまだー!!)
負けず嫌いなのは俺も同じで、バック転やスライディングなどを駆使して、アクロバティックにチョコを口に収めていく。
伊達にお嬢様スポーツ進学校に通ってないぜ。

花梨「おー、なんかオモシレーことやってんな」


見れば、いつの間にか野次馬の人垣が出来ており、その中に花梨先パイと莉子先輩、それにあやめ先輩の姿もあった。
莉子「御神君、相変わらず無駄に運動神経良いよね」
ポニーテルの頭が一つ飛び抜け、人込みの中でも目立つ莉子先輩が呆れ半分といった表情で驚いている。
御神「先輩、『無駄』とか言わないで下さいよ……」

あやめ「というよりも、なんや雪姫はんが御神君に餌付けしてるみたいやね」
はんなりと口元に手をやるあやめ先輩。
その言葉に周囲からクスクスと笑いが起きた。
自分でもちょっと思っていたが、確かにこれでは猿回しの猿みたいではないか。
御神「ぐっ! 俺はそんなに安くないぞ!」
世界征服を目指すのだから、チョコレートごときでは釣られないのだ。

雪姫「あら、そうなのですか? せっかく形を似せただけでなく、本物を使ったトリュフチョコ(50g2万5千円)ですのに……」
御神「えぇっっ、マジっ!?」
雪姫の言葉を聴いた瞬間、時間が止まったような気がした。
調子に乗って、何個もパクついていたが、俺はいったい何人のユキチを丸呑みしてしまったのだろうか……。
今思えば、チョコの中に金粉とか見えた気がするが、味なんてまったく覚えていない。
世界三代珍味を味わいそこねてうな垂れていると、

莉子「よーし! じゃあ、あたしも挑戦するね!」
そう言って、莉子先輩がモデルのように長い手を上げる。
莉子「あ……言っとくけど、も・ち・ろ・ん、義理だからね、義・理!」
『義理チョコ』だということを殊更強調して、チョコレートボールを取り出す莉子先輩。

――ドン!

御神「ちょっと待て! どこの異次元ポケットから出した!?」
『どっこいしょ!』と、莉子先輩が召喚したのは、チョコレートボールはチョコレートボールでも
バスケットボールぐらいのサイズだ。
莉子「たはぁ〜……作ってるうちについ、いつも扱い慣れているサイズになっちゃって……ホラ、ボールは友達って言うじゃない?」
黒々としたボールをフリースローの体勢で構えるバスケ部のエース。
御神「知らない! 少なくとも俺のトモダチじゃない!」
言いながら一歩、二歩と後ずさる。

花梨「御神ー、カシリコの愛をちゃんと受け止めてやれよー」
他人事だと思って、ギャラリーがはやし立てる。
御神「無理! こんな大きな愛、俺(の口)には大きす――!」


――ヒュン!

セリフを完全に言い終わる前に、カカオマスで出来た砲弾が発射され、俺の顔面に大きな影を落とす。
御神「ぎゃーーーーーー!!」
口というか、顔にスリーポイント・シュート見事に決まったのだった。


◆◇◆
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御神「あ〜、まだアゴがガクガクする……」
弓道場の青々とした芝生に座りながらアゴをさする。

あやめ「御神君、大丈夫? あれはエラかったなぁ〜」
あやめ先輩が点ててくれたお茶を受け取る。


莉子先輩の熱烈なスリーポイント・シュートを喰らい、一時はアゴが外れるかと思ったが、
人間、頑張ればやってやれないことはないらしい。
頑張る方向を間違っている気がしないでもないが、濃茶の渋味が口の中の甘ったるさごと全てを忘れさせてくれる。
(てか、何で抹茶の味がしねーんだよ!?)
予想の斜め上を行く和歌月流茶道におののきながらも、茶をすする。
あやめ「ほんでな、御神君。ウチも“これちょ〜と”渡したいんやけど、受け取ってくれる?」
春風のようにたおやかな笑みを浮かべて、頭のリボンを揺らすあやめ先輩。
御神「それを言うなら、“チョコレート”ですよ、あやめ先輩。けど……あやめ先輩がバレンタインを知ってるなんて、意外だな」
大和撫子を地で行くあやめ先輩は、機械や横文字といったものにめっぽう弱い。
そんなあやめ先輩が西洋の記念日(チョコ渡すのは日本だけだケド)を知っているなんて驚きだ。

あやめ「のっちゃんが教えてくれたんよ……ほんで、ウチも御神君に渡そうと思うて……」
ののみ先輩、あんなこと言っといて、普通に楽しんでるじゃないか。
お堅い生徒会長の意外な一面を知って、思わず口角がつり上がる。
御神「あやめ先輩のチョコなら喜んで受け取りますよ!」
過去にあやめ先輩からチョコをもらった記憶は無い。
代わりに煮干を貰ったような気がするが、黒歴史だ。
御神「それで、あやめ先輩はどんなチョコを作ってくれたんですか?」

あやめ「莉子はんに教わって作ったんやけど、ウチ、チョコは初めてで、よう似てるモンで作ってみたんよ」
(普通に作ってよかったのに……(汗))
そう言って、目の前に現れたのは、お祭りなんかでおなじみのプラスチック容器。
その中に所狭しと並べられているのは、あやめ先輩の地元のソウルフード……タコ焼きだ。
莉子先輩の名前が出てきた辺りで、怪しいとは思ったが、その予感は不幸にも当たっていたようだ。
ソースやかつお節の香りも、小麦粉の宝石のような生地も、正真正銘のタコ焼きで、外見にはどこにもチョコ要素はない。
御神「ハ、ハハ……確かに『タコ』と『チョコ』って語呂が“よく”似てますよねー」
実際は『コ』しか合ってないのだが……。

あやめ「せやなぁ、御神君もやっぱりそう思うんやね♪」
カマをかけてみたら、満面の笑みで返されてしまった。
(ええい! あやめ先輩にこんな顔させて、食べないわけにはいくまい!)
俺は覚悟を決めると、爪楊枝で“タコ焼き”……ならぬ、チョコ焼きをぶっ刺し、一気に頬張った。
さすがに趣味にしているだけあって、タコ焼きの生地は“外パリパリ&中ふっくら”の基本を押さえている。
しかし、噛めども、噛めども、期待する歯ごたえは無い。
代わりに、溶けたチョコのヌメっとした甘みが舌を、味覚を、どんどん侵食していく。

あやめ「どうやろ、御神君? 美味しい?」
期待と不安に揺れる黒曜石の瞳に俺を映すあやめ先輩。
御神「うっ……ウマいですよ、あやめ先輩!」
冷や汗を流しながら笑顔を浮かべる。


御神「口の中でチョコと小麦粉がめっちゃ絡み付いて、やっぱ喉越しとかもけっこう良くて、しかも紅しょうがもめっちゃシャキシャキしてて……とってもおいしいです(涙)」


声は出しても具は出すまいと、テレビの人気AD君のような棒読みコメントを連発する。
紅しょうがとチョコを一緒に口にしたのは生まれて始めてだが
、出会ってはいけない二人だったみたいだ。
あやめ「ホンマ? 良かったわ喜んでもらえて〜。ささ、ぎょうさん食べてな!
俺の感想に気を良くしたのか、手ずから食べさせてくれるあやめ先輩。
顔で笑って、心で涙を流しながら、
心ゆくまで“チョコ焼き”を堪能する。
(紅葉よ……俺は今、笑えているか……?)
中に入っているのは甘いミルクチョコなのに、ビターな味がした……。


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ひかり「あ、御神君。良かった〜、見つかって……」
保健医の日課とも言うべき、校内の見回りをしていると、ひかりちゃんが駆け寄ってきた。


(おおっ!)

ブラウスのボタンを弾き飛ばさんばかりに、ブルン、ブルンと弾むチェストボールを思わず目で追いかける。
相変わらずこの幼なじみは無意識にエロスを振りまくから、
実にけしからん(良い意味で)。
御神「ひかりちゃん、どうしたんだ?……って、その紙袋を見れば分かるか」
ひかりちゃんの細い手首に下げられた紙袋の中には、可愛らしくラッピングされたチョコが大量に入っていた。

ひかり「う、うん……御神君もチョコ嫌いじゃなかったら受け取ってくれると、嬉しいな……ハイっ」
そう言って、大きなリボンでラッピングされた袋を渡される。
中には一口大のハートの型抜きチョコがいくつも入っていた。
他の幼なじみとは違って、シンプルだが一番女の子らしい手作りチョコに胸がキュンとする。
そんな俺を
下から覗き見るように窺うひかりちゃんの頬は少し上気していて、同い年とは思えないぐらい色っぽい。
御神「モチだぜ! 糖分は身体に一番必要な栄養素だからな。それにひかりちゃんの愛情が入ってるなら、貰わないわけにはいかねぇな!」
俺の言葉に、ひかりちゃんの顔は瞬間湯沸かし器のように一瞬で真っ赤になった。

ひかり「あ、あ、愛なんて……こ、これはいつも身体測定してもらってるから、そのお礼でっ……」
御神「なるほど、なるほど……エッチな身体測定してるのに、チョコまでもらえるなんて嬉しいな。こりゃ今度の身体測定はますますエロくしないとなっ?」
チョコを受け取り、最高の笑顔で最低のことを言う。

ひかり「そ、そんな……これ以上エッチなことされたら、わたし……」
けれど、ひかりちゃんは朱に染まった頬を両手で押さえながら、困ったような、恥ずかしいような表情を浮かべた。
(相変わらずひかりちゃんはイヂメ甲斐があるぜ)
レスリングで
技をかけられただけで感じちゃうドM体質な幼なじみは言葉だけでもエッチなことを想像してしまったらしい。
御神「ところで、他にもチョコたくさんあるみたいだけど、それ全部渡して回るの?」
紙袋の中にはタイムセールスの袋詰めのように、まだまだたくさんのチョコが入っていた。

ひかり「え? うん、そうだよ。お世話になってる部活の先輩とか、クラスメイトとか、後は先生とかにも……」
マメなひかりちゃんらしいなと思いつつ、そのレスリング選手とは思えないぐらい華奢な肩をガシッと押さえる。
御神「ひかりちゃん……ソレ、男子や男の先生にはあげるなよ?」
ひかり「えっ、えっ? でも、あとは全部義理チョコだよ?」
ひかりちゃんは頭にたくさんの『?』を浮かべていた。
(それはつまり、俺の義理じゃないってこと!?)
小躍りしそうになったが、今はこの天然悩殺娘を何とかしないといけない。
ひかりちゃんは義理チョコのつもりでも、ハート型やピンクのリボンで丁寧に包装してあったら、年頃の男子や冴えない中年は
絶対に勘違いする。
(そして、きっとそのままひかりちゃんは勘違い男子や教師の毒牙にかかって……アーンっなことや、こんなことに……)
自ら地雷を撒き散らす
根っからのM気質な幼なじみのバッドエンドが見えてしまった。
ひかり「御神くんがそこまで、言うなら分かった。女の子にしか渡さないね」
ひかりちゃんは決意を固めるように握り拳を作る。


ひかり「……でも、御神君がそう言ってくれるなんて、珍しいっていうか……なんか嬉しいな♪」
モジモジと魅惑的な肢体をくねらせながら、ポツりと呟くひかりちゃん。
(ヤキモチと勘違いしてらっしゃるぅぅーーーーーーー!!)
それでも俺は、一人のいたいけな少女の未来を救ったかもしれない。


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御神「奈緒ー、いるかー?……うぉッ!? うぉわぁーっ!」
――ドサ! ドサ!
応援団の部室の重厚な扉を開けた途端、チョコの箱が廊下まで雪崩落ちてきた。
任侠映画に出てきそうな部室には似合わないファンシーな包みの数々。
リボンや飾り紐でラッピングされたチョコの山の中に一際長いリボン……というか、ハチマキが見える。

奈緒「いよう、みっちゃん……」
ガサガサと音がしたかと思うと、ヒョッコリ奈緒が顔を出した。


御神「コレ全部、奈緒宛のバレンタインチョコか? モテモテじゃねぇか……」
(聖蓬のオアシス(自称)こと保健医の俺より多いけど、悔しくないぞ! チクショウ! いや、マジで!)
奈緒は応援団の部長ということもあって、いつも学ランを着ている。
そのせいか、一部(腐)女子から異常なまでの人気を集めているのだ。
噂では
非公式ファンクラブ“ODO団(応援団長を応援する団)”もあるとか、ないとか……。
このチョコの山を見ると、あながち噂では終わらないかもしれない。

奈緒「甘いモノは好きだけどさぁ〜、オレは硬派を目指してるからな〜」
奈緒は困ったような顔をして、ポリポリとショートヘアーの頭をかいた。
(そういや、でっけぇ、漢になる!のが夢とか言ってたな、この幼なじみは……)
昔から、俺と一緒になって、木登りやスカートめくりをしていたせいか、やたらと男っぽくなってしまった。
けれど、それは性格の話。
普段は学ランやサラシに隠れているが、
奈緒の身体は立派に発育しているのだ。
おれ自身、
身体測定をしなければ、一生気付かなかったかもしれない。
そう思うと、保健医になって本当に良かったぜ。
サラシにきつく戒められ、悩ましく潰れたオッパイを想像して、股間のチョコバーがムクリと反応する。
御神「そうだ、奈緒。俺にもチョコくれよ。他の幼なじみはみんなくれたぞ」
俺の中にちょっとしたイタズラ心が生まれ、奈緒に手の平を見せる。

奈緒「えぇ〜、何でだよ? オレは漢を目指してるんだぞ?」
あからさまに嫌そうな顔をする奈緒。
御神「バカ、最近は『逆チョコ』って言って、男の方からチョコを渡すんだぞ」
“3倍返し”よりもタチの悪い風習も今は利用させてもらおう。
(まぁ、硬派な漢は絶対にやらないだろうケド……)
御神「つまり、漢を目指すなら、まずはオレにチョコを渡すのが正解だ」
奈緒「そ、そうなのか? サッパリ知らなかったぜ」
根が純粋と言うか、単純な奈緒は予想通りコロっと騙されてしまった。
奈緒「でも、みっちゃん。オレ、チョコなんて用意してないぞ?」
御神「大丈夫。チョコなら部屋中にいっぱいあるじゃないか」
そう言って、部室の扉にカギをかけると、ゆっくりと奈緒に近づいた。


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