~~露伴達のクリスマスパーティ!(3)~~
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■6 プレゼントの中身
二階堂智輝殺人事件も本人が生きていたというどうしようもないないオチで幕を閉じた。
そのため、プレゼント交換でゲットしたプレゼントを開けることになった。
智輝「さ~て、どんなプレゼントが入っているのかな?」
例え仲間同士であろうとも、お互い何を送ったのかは、秘密であるので、何が出てくるかドキドキしてしまう。
5cm四方の箱を包むリボンをしゅるりと外す。
シルクの上品なリボンからして、そこら辺の百貨店で買えてしまうような安物ではないだろう。
期待に胸が膨らむ。
包装紙を外し、箱の中身をチェックすると、そこにはなんと大きなルビーが入っていた。
智輝「お、おおおおおおおっ!」
思わず唸ってしまう。
残り物には福があるというが、それはどうやら本当だったようだ。
こんな素晴らしい宝石がプレゼント交換で手に入るとは思ってなかったぜ。
キラキラと輝くルビーは光の通しもよく、純度も高い。
愛「あ、それあたしが作ったプレゼントだ」
智輝「あ、そうか。これは露伴が作ったルビーか……通りで随分と高価な……」
そこまで言って妙に引っかかる単語が混ざっていることに気付いた。
智輝「『作った』? もしかして、露伴のこれ、原石から削って……」
ラジオ「本日未明、ルーブ美術館に厳重保管されていた『アップルダイア』と異名を持つルビーが何者かに盗まれていたことが判明しました」
智輝「…………もしもし露伴さん?」
ラジオを耳にしてイヤな予感が脳裏をよぎった。
智輝「まさかとは思うが、このルビー、盗んできたモノじゃないよな?」
愛「もうっ! さっきも言ったけど、昨日の夜作ったの、ゼリーを」
露伴は可愛いほっぺをプンと膨らませて、怒った様子を見せる。
智輝「えっ、ぜ、ゼリー!?」
もう一度、受け取ったプレゼントを見ると、確かに宝石のように輝くそれは透明度が高過ぎる。
試しに指で触れてみると、成長を始めたばかりのおっぱいのように、表面が固くぷよんと弾んだ。
智輝「こんにゃくっぽいゼリー……?」
愛「でもないわよ。ただのゼリー」
智輝「ほえぇ~~~。でも、『ただのゼリー』ってことはないだろう」
俺の言葉に、露伴は疑問符を浮かべているようだった。
智輝「そっか……露伴愛が手作りの世界でたった一つしかない、特別なゼリーさ。まさに『愛』がいっぱいつまった宝石だな」
愛「ドキ、ちょ、ちょっと照れくさいこと言わないでよ。似合わないわよ、トモ……」
露伴は文句を言いながらも、頬を染め、ちょっと照れたように笑った。
愛「そ、そんなことより、それ、早く食べちゃってよ。長時間放置してもいいようには作ってないんだから、着色料も保存料も使ってない
天然モノよ」
智輝「わ、分かった。それじゃ、ちょっと勿体無いような気がするが、いただくよ」
俺は露伴が作ったゼリーを口に含んだ。
歯ごたえ抜群のゼリーを舌の上に乗せて味を楽しむ。
智輝「──ン!?」
その瞬間、走る、脳裏に電流!
軽いゲシュタルト崩壊を起こす俺の脳。
身体が拒絶反応を示し、まだ口の中にあるにも関わらず、喉の奥が締め付けられ口内のものを外に出しそうになった。
愛「どしたの、トモ? もしかして、あまりの美味しさに口からビームでも出そうになった? 我慢せずに、味武将になってもいいよ?」
大夏「そんな様子には見えないけど……」
智輝「…………んく。違うわっ! あまりの刺激っぷりに身体が拒絶反応起こしたんじゃっ!?」
愛「拒絶反応ってそんなまさか。だって、それにはイチゴソースくらいしか使ってないよ」
智輝「そのイチゴソースはタバスコ味だと、俺の舌は訴えてらっしゃるのだが……」
そう伝えると、露伴は何故かビクッと肩をケイレンさせていた。
そして、頬に垂れる一筋の汗。
愛「い、いや、そんなまさか……だって赤かったし……そんなワケは……」
智輝「共通点『赤』だけ!? だったら、野菜ジュースだって、トマトジュースだって、赤ワインだって赤いじゃないかっ!?」
こよみ「愛ちゃんの冷蔵庫だと、チリソースも入っていたりしますね」
……なんでそんなに選択肢があるのに、確認しないんだよ。
愛「ま、まあ良かったじゃない。ハバネロソースと間違えられなかっただけ。次はケチャップくらいで留めるように努力するから」
智輝「努力しても、間違える時点で恐ろしいわっ!」
やっぱり、お嫁さんにするなら料理が上手な女の子であってほしい。
大夏「そいじゃ次は私のプレゼントをみんなで見よう!」
アニメ番組の予告のような口調で、自分のプレゼントに注目させる。
愛「何が出るかな、何が出るかな?」
先ほどの大惨事も忘れて、露伴も子どものような瞳で見つめている。
次本はワクワクした様子でプレゼントの紐を解いていく。
智輝「うわ、なんかすごいのが出てきたな」
プレゼントの包みを剥がすと中には、ファンタジーロールプレイングゲームに登場しそうな宝箱が出てきた。
こよみ「これはいいものが入っていそうですね」
愛「ささ、早く開けて開けて♪」
俺達の期待が膨らんでくる。
大夏「さ、開けるよ……」
次本は鍵がかかってそうな宝箱をいとも簡単に開ける。
<BANG☆>
宝箱を開けた瞬間、中から勢いよく何かが飛び出してきた。
大夏「ふもっふ……」
それはマネキンの下半身・それもお尻の部分だけだ。
次本の顔面がマネキンの尻に埋まっている! しかも縞パン付き。
智輝「な、ん、だ……これは……」
大夏「これ? これはあたしが仕掛けたトラップだよ」
智輝「トラップっ!? なんでプレゼント交換でそんなもん仕掛けちゃってるのっ?」
大夏「智輝が貰ったら喜ぶかなって思って……」
俺が開けたらさっきの尻に顔を埋めることになるのか……。
智輝「そういうのは直接渡せよ。なんで1/7の確率に賭けてんだよっ!?」
大夏「悪くない確率だと思って」
智輝「悪すぎるわっ!」
しかも、クリスマスのプレゼントとして貰って嬉しいものではない。
智輝「だいたい、自分のプレゼントだって開ける前から分かるだろ」
大夏「いやー道理で見たことがあるなーって思ったよん」
智輝「そこまで分かっててむざむざ引っかかったのかよっ!?」
大夏「せっかく、こだわりの低反発素材、綿100%を使った自信作だったのになぁ。ざーんねん」
次本は縞柄のパンティを穿いたお尻を付いて左右に揺らす。
よく見るとお尻のパーツとパンティは別パーツになっていた。
智輝「もしかして、本当のプレゼントのそのパンツ、とか言わないよな?」
大夏「深読みし過ぎ!」
次本からワンパンチもらってしまった。
大夏「愛は何を貰ったのん?」
次本は露伴の貰ったプレゼントに興味の矛先を変える。
こよみ「いいものがもらえているといいですね」
こよみさんも露伴が持っているプレゼントに視線を向ける。
智輝(しかし、これ本物のお尻のような感触があるのだろうか……?)
俺はその中で1人だけまだ次本のプレゼントに釘付けだった。
このお尻は結構リアルに出来ており、実際の人間のお尻と比べても遜色ない大きさだった。
智輝(どれ一度試してみるか……って、これ、どうやって箱の中に入れたんだよっ?)
箱の大きさは普通なのに……。
大夏「んっ、トモちん何してるのん?」
智輝「あ、な、何でもない。露伴は……俺からのプレゼントみたいだな」
包装紙を見て一発で分かった。
愛「さぁて、トモは何を用意してくれたのかなー?」
露伴は心躍る様子で包装紙から、中身を取り出した。
それはMサイズのTシャツだ。生地は綿で、ワンポイントがあるだけのごくごく普通のシャツだ。
愛「えー、ちょっと残念だなー。これただのTシャツだよ」
智輝「ただのTシャツとは失礼な。ここにサインが入っているじゃないか。技の百貨料理店と言われた『舞悩美』だぞ」
価値にして大型紙幣3枚分。
愛「あたし、その頃この国にいなかったから、すごいって言われてもなー。まあトモが大切にしてたTシャツだし、ありがたく頂こう。大事にしなくちゃ」
智輝「ドキ」
露伴の言葉に不意にときめいてしまう。
普段はめちゃくちゃで自分勝手だが、こういう時折見せる女の子らしいところが可愛い。
露伴が喜んでいる所に、素早く風を切る何かが飛んできた。
愛「──っ!?」
露伴はそれを受け止める。
どうやらそれは小さなカードのようだ。
カードに記述された内容を読み上げる露伴。
愛「なになに……『今宵、あなたのTシャツをいただきます 怪盗キャッツパッド』~~なぁにこれーーっ!?」
露伴はカードを握りつぶすと、つかつかと桜の元に一直線で向かう。
愛「ちょっと桜ぁー! これは一体どういうつもりよ!?」
桜「ドキッ──さ、さて、何のこと? どうして私が二階堂君のシャツを狙わないとダメなのかしら?」
と誤魔化しつつも桜は一度もこちらを見ない。
智輝「おい、窓ばっかり見てないでこちら向けよ」
桜「ほ、星が綺麗だからよ」
智輝「そうか、ま、いい。お前はどんなプレゼント貰ったんだ?」
俺は桜に近付き、持っている箱の中身を覗こうとする。
桜「きゃっ!?」
小さく悲鳴を上げる桜。
智輝「どうしたんだよ、桜? 変な声上げて」
桜「な、なんでもないわよ」
桜(さっき、あんなにエッチなことしたのに、どうして何でもないような顔でこっち来るのよーっ?)
相変わらず桜は俺を敵として見ているのか、鋭い目付きで睨みつけてくる。
桜「私が貰ったのはこれよ」
桜が持っていた箱を見せると、中には人形が入っていた。
人形と言ってもアキバ系が好む美少女フィギュアではなく、○と△だけで構成されたようなデザインの水色不思議生物だった。
可愛いのは不気味なのか正直判断しかねる。
智輝「な、なんだ人形?」
桜「んー……? うみにゅん?」
愛「うみにゅん!?」
桜の言葉を聞いて、露伴が瞳をキラキラと輝かせる。
大夏「なぁーに、あんた達うみにゅんも知らないの?」
智輝「あ、ああ……」
こよみ「うみにゅんって言うのは最近、女子校生の間で爆発的大Hitを記録している人形なのですよ」
なんとこよみさんまでもこの存在を知っているようで、驚きを隠せない。
なんでも社会現象にもなっているようで、今時の若い子なら喉から手が出るほど欲しがるモノらしい。
愛「あ、ああ、あんたっ、それをどこで手に入れたのよ?」
桜「プレゼント交換よ」
愛「んー、もーー、そうじゃなくて、どこに売ってたか教えなさいよーっ!」
桜「知るわけないでしょっ!? 私が買ってきたわけじゃないんだから」
全くもってその通りなのだが、手掛かりを失った露伴はしょんぼりとうなだれる。
それを見て桜は可哀想に思ったのか、露伴の肩を叩く。
桜「良かったら交換する? その、智輝のシャツと」
愛「い、いいのっ!? するするっ! あんなシャツでも良いなら交換するよ!」
ぱっと表情を明るくさせて、桜の両手を掴む。
桜「交渉成立」
桜も輝かしい表情を浮かべて、露伴の手を掴んでいた。
智輝「ちょっと待てぇ、お前さっきシャツを大事にするって言ってたじゃないかっ!?」
愛「あ、なんなら本人も付ける?」
智輝「付けるなっ!?」
桜「…………ぽ」
智輝「お前も照れないで否定しろよっ!?」
目の前で行なわれるプレゼント交換。
送った本人としてはかなり複雑な気分だった。
愛「やったーこのうみにゅん、鳴き声がとってもかわいいのよねぇ♪ おなかをこう押すと……」
うみにゅん「ひぎいぃぃぃぃいぃっ!!!」
金切り声を上げるドレイクさえも、アンサモンされてしまうのではないかと思うほどの叫び声が聞こえてきた。
智輝「か、かわいい……?」
桜「さ、さあ……」
愛「んんーーーっ、最高っ! これからは毎晩このコ抱いて寝ようっと」
……同室の人達が悪夢にうなされないことを望みます。
智輝「ところで菫ちゃんは、何を貰ったのかな?」
遠くで1人、ジュースをチビチビ飲んでいた菫ちゃんに聞いてみる。
菫ちゃんはすでにプレゼントを開けてようで、袋の中身を見せてくれた。
菫「桜ねぇが描いてくれたトモにぃの絵♪ with写真」
智輝「それを貰って一体誰が喜ぶのか教えてくれ」
桜の手に渡っていたら、きっと丑三つ時に釘を打たれていたに違いない。
智輝「しっかし、よく描けているものだな。アイツが絵、上手なの知らなかったぜ」
菫「そうだねー。どうして、こんなに集中力が持つんだろうねー?」
菫ちゃんは何か言いたそうに意味ありげな笑みを浮かべていた。
智輝「……?」
俺はその意味がサッパリ分からなかった。
智輝「こよみさんのプレゼントは何でしたか?」
大夏「そうだ、こよみんの貰ったプレゼントってなに?」
こよみ「あの……わたくしのは……あっ」
こよみさんは、プレゼントの中身を聞かれると、持っていたコップを落とすほどに動揺する。
こよみ「ジュースをこぼしてしまいました。すみません、少し片付けなければならないので」
こよみさんはこれ良き機会とさささっと去っていってしまった。
智輝( ? )
明らかに隠した態度なのは分かったが、一体何を貰ったのか逆に気になってしまった。
■7 最後のプレゼント
愛「ねえ、智輝ー。なんかプレゼントが余ってるっぽいんだけどー」
露伴の一言で、机の上に残っているプレゼントに注目が集まる。
智輝「おかしいぞ、この場にいる全員にはプレゼントが行き渡っているハズだ」
しかし、現実にプレゼントが一つ余っているのは事実。
智輝「もしかして、銭型、お前か? みんなとプレゼント交換が出来なくて寂しいから」
乙女「違うわっ」
智輝「本当かぁ~~? 偽証罪に問われたくなければ、本当のことを話せ」
乙女「アタシはいつでも本当のことしか言ってない! 怪盗取締課の名前に誓って、虚偽の申告などしていないっ」
銭型は全力でプレゼントを持ってきた説を否定していた。
智輝(そういやさっき、タッパーをプレゼント代わりにしようとしてたし、犯人じゃないか)
ではこの部屋の中に犯人がいることになる。
智輝「まあ、いいか。せっかくだから、この余っているプレゼントはお前にくれてやろう」
乙女「ほ、本当か!? いいのか、アタシが貰ってもっ!?」
銭型は目を見開き、自分を指差して、再確認をする。
若干興奮しながらプレゼントに向かう。
愛「いいんじゃなーい? 私達の誰かが貰ったら不公平だし、せっかくいるんだから」
露伴は普段邪魔者扱いしている銭型に対しても、寛大な態度を取っていた。
もしかしたらクリスマスだからかも知れない。
乙女「そ、そうか。じゃあ、ありがたくいただくぞ。もう返せと言われても返さんからなぁ。ハッハッハッ」
両手でプレゼント箱を受け取る。
乙女「やったやったー、プレゼントだーっ!」
銭型はプレゼントを手にすると嬉しそうに飛び跳ねる。
智輝(そんな子どもみたいに喜ばなくてもいいのに……)
銭型は嬉しそうに箱に頬ずりする。
大夏「あんなに喜んでもらえるなら、あげて正解だったわね」
乙女「っ!?」
銭型が頬ずりしていると、途中で目を見開く。
智輝「どうした、銭型。そんなに驚いて?」
乙女「これはプレゼントじゃない! ば、爆弾だーーーーっ!!」
プレゼントを放り投げて、慌てて地面に伏せる。
智輝「なにぃいーーーっ!! そんなバカなっ!?」
乙女「バカな、じゃないっ! 中でカチカチ鳴っているんだ! あれは時限爆弾のカウントダウンに違いないっ! みんな、伏せろーーーーっ!」
まるで『リアルタイムに進行する海外ドラマの主人公』のように必死で叫ぶ銭型につられ、俺達も咄嗟に身を屈めた。
チッチッチッチッ……。
チッチッチッチッチッチッ……。
チッチッチッチッチッチッチッチッ……。
時計の音だけが部屋の中に響き渡る。
乙女「…………」
智輝「…………」
乙女「…………」
智輝「……おい、銭型。何にも起きねぇじゃねぇか。本当に爆弾の音だったのか? お前の聞き間違いじゃないのか?」
乙女「だ、だったらお前が調べてこい」
智輝「なんで俺なんだよ。お前が調べてこいよ。お前へのプレゼントだろ?」
乙女「これもきっと露伴がアタシを消そうと、張り巡らせた罠に違いない」
愛「ちょっとっ!? 勝手なこと言わないでちょうだい。快盗は人を傷つけないんだからっ」
智輝(さっきのお前の行動で俺の心は思いっきり傷付いたぞ!?)
菫「仕方ないなぁ。じゃあ私が」
智輝「いや、俺が行くよ。菫ちゃんを危険な目に遭わせるわけにはいかないからな」
乙女「アタシなら良かったのかっ!?」
ショックを受けている銭型を尻目に、俺はゆっくりとプレゼントに近付く。
抜き足、差し足、忍び足……。
音を立てぬようにゆっくりと近付き、プレゼントに手を伸ばすと。
???「ドカーーーンッ!」
智輝「ひゃああっ!!?」
背後から大きな声をかけられて、俺の心臓が縮みあがった。
情けない声を響き渡らせてしまう。
フィリーネ「冗談だ」
菫「トモにぃカッコ悪い……」
俺の悲鳴を聞いて、菫ちゃんは心底ガッカリした表情を見せている。
智輝(その瞳、ゾクゾクさせてくれるぜ!)
しかし、今はそんな軽蔑の眼差しに悶えている時ではない。
智輝「てめぇっ、心臓に悪いことすんじゃねぇ!」
フィリーネ「サービスだよ、サービス」
智輝「しかも、なんでまだソレ着てるんだよ? 恥ずかしいなら脱げよ」
フィリーネ「なんと、お前は我輩に、この衆人環視の前で全裸になれというのか」
フィリーネは自分を抱くように恥らう。
智輝「そういう意味じゃねぇっ!」
しかもなんで若干嬉しそうな表情をしてんだよ?
大夏「あぁん? いけないなぁトモちん? そんなセクハラは? 撃ち抜くよ?」
グリグリと銃口を俺の頬に押し付けて、脅迫される次本。
智輝「い、いや……そんなつもりでは言ってない。着替えろと言っただけだ」
フィリーネ「ここでか? やはり脱げと言っているではないか!」
智輝「だからちげぇよ!」
俺は軽くフィリーネに拳を入れる。
智輝「はぁ……もういい。それより、この中には何が入ってるんだ」
これで本当に爆弾だったらシャレにならないが、さすがにそんなことはなかった。
中に入っていたのは、ただの置き時計だ。
智輝「なぁーんだ。ただの時計か……紛らわしい。誰だよこんなハタ迷惑なプレゼント用意したの?」
フィリーネ「決まっているだろう」
智輝「分かるのか? あ、そうかその目で……」
フィリーネの目は全てを見通す不思議な力が宿っている。
その目によって、秘密を暴かれた人間は数知れず、ってヤツだ。最も解決した事件よりも発生させた事件の数の方が多いのが問題だが。
フィリーネ「いや、我輩の目では物の過去までは見通せない。まあ、そんな能力がなくとも簡単に分かることだがね」
フィリーネはキザったらしく、瞳を閉じて、前髪をかき上げた。
智輝「というと……?」
フィリーネ「ん~~~初歩的な推理だよ、古泉君」
智輝「誰が古泉だ。お前は今畑のつもりか」
しかもあれは探偵ではない。
フィリーネ「この場にいた誰でもないのなら、このパーティの存在を知っている人間に限られる」
フィリーネ「それでいて、こんな紛らわしいことを好んで行なう人物など、数えるほどしかないだろう」
乙女「よーし、分かった。つまり、犯人はやはり露伴愛ということだな」
フィリーネ「違いますよ、オドロキ警部」
智輝「お前な……有名な推理小説の人物パクってると、ミステリーファンから完全犯罪されるぞ」
フィリーネ「犯人は……貴方ですっ!」
フィリーネは犯人に対して人差し指を向ける。しかし、その先には壁があるだけ。
智輝「おい、誰もいないぞ」
フィリーネ「言ってみただけです」
智輝「なあ、そろそろ、しばいて海に捨てていいか?」
俺はフィリーネに拳を見せて、威嚇する。
フィリーネ「やれやれ、智輝は短気だな。犯人は理事長だよ」
智輝「理事長だと……」
意外な言葉に現場の皆は驚きの声をあげた。
フィリーネ「良い子の皆にサプライズとプレゼントを渡したかったようだよ。直接置いていったのを、私は見た」
智輝「それ推理でも何でもないだろうがっ」
フィリーネ「ふむ、そうとも言えるな。しかし、細かいことを気にしてはいけないぞ」
フィリーネはパイプをひと吸いして、こう言った
フィリーネ「Just one more thing」(あと一つだけ)
智輝「推理ネタはもう十分だっ!」
俺はボロンコの真似をするフィリーネをしばいた。
■8 食べ残し パーティ会場 夢の跡。
あんなに騒いで、明るかった会場が、今はしんと静まり返っていた。
智輝「さっきまであんなに騒がしかったのがウソのようですね……」
パーティ会場の後片付けをしながらぼやいた。
こよみ「そうですね」
こよみさんも床に散らばったクラッカーの紙吹雪を掃除をしながら、俺の言葉に同意してくれた。
智輝「しかし、散らかし過ぎだぜみんな……掃除するこっちの身にもなってくれよ」
蘭「散らかってるのは、それだけみんなが楽しんでくれた証拠よ。それにじゃんけんで負けたんだから、文句は言いっこナシでしょ?」
蘭さんはニコリと笑いながら、食卓の上に布巾で拭いていく。
見る間に新品同様の輝きを取り戻す。実に美しい仕上がりだった。
智輝「蘭さん、もうそっちは終わったんですか」
蘭「うん。トモちゃんだって知ってるでしょ? 実家が喫茶店やってるって。お手伝いしてるから、こういうことって慣れてるのよ」
ほぉ、とこよみさんは蘭さんを尊敬の眼差しで見つめる。
こよみ「すみません、わたくし、全然お役に立てなくて」
智輝「い、いや……いいんだよっ……」
1人でテキパキ仕事をしていた蘭さんとは正反対にこよみさんは、お皿を割る、飾りつけを取ろうとして家具を倒す、お料理の残りものをこぼす、と言ったミスを繰り返していた。
剣の腕前は立派ではあるものの、こういうことはサッパリなようだ。
俺もそのフォローをしていたので、あまり作業が進んでいなかった。
智輝「だ、大丈夫ですよ。ウチのバーも、酒に酔った客のせいで、よくめちゃめちゃになってましたし」
こよみ「本当に申し訳ございません。かくなる上は腹を切ってお詫びいたします」
ちゃきっと斬鉄刀を引き抜き、白く無駄な肉のついていない腹部にその切っ先を当てる。
蘭「ちょ、ちょっとこよみさん、そこまでしなくてもいいのよ!」
俺達は慌てて、こよみさんの死没を防いだ。
なんだかんだで掃除が終わったのは、日付が変わっていた。
智輝「終わったーー……」
部屋全体の掃除を終えると、俺は額に滲んだ汗を拭いた。
蘭「お疲れ様、トモちゃん」
蘭さんは缶コーヒーを持ってきてくれた。
伊勢崎製菓の数少ない当たり商品、『どノーマルコーヒーコーラ』だ。
まるで魂の叫びのように商品名でやたら強調されている『ど』がそれを物語っているようにも思えるが、
コーヒーとコーラがコラボってるところで、もはやノーマルのノの字も見えない。
むしろ、これを『どノーマル』だと言ってしまうあたりで、伊勢崎製菓の商品ラインナップのすさまじさを物語っていると言えよう。
しかし、蘭さんがせっかく持ってきた缶ジュース……飲まないわけにはいかない。
俺は無表情で缶コーヒーの中身を流し込んだ。
蘭「はい、こよみさんもお疲れ様」
こよみ「ありがとうございます」
こよみさんも蘭さんの手から缶を受け取ろうとすると、思わずするりと落としてしまう。
缶がゆっくりと地面に落ちたかと思うと……。
<シュワーーーーッ!!>
こよみ「あっ」
蘭「きゃっ」
中身が勢いよく噴き出し、こよみさんと蘭さんに降りかかる。
『爆発・炭酸』とかかれた缶が転がる。
智輝(本当に爆発しやがった、この飲料め……)
ちなみにこれは数少ない伊勢崎製菓の(本当の意味での)地雷商品である。
新技術を惜しげもなく使って、従来の500%の炭酸を実現した恐るべき商品だ。
智輝「2人とも、びしょ濡れになっちゃいましたね」
蘭「そうね」
蘭さんはポタポタと濡れた髪から雫を垂らし、自分の格好を見る。
濡れ鼠ならぬ濡れ猫だった。
その色っぽさにドキリとしてしまう。
智輝「は、早く着替えてきた方がいいですよっ」
蘭「あ、そうだ。ちょうどいいから、トモちゃんに披露しちゃおうかしら」
智輝「え、何をですか?」
蘭さんは微笑むと、今日のプレゼント交換で手に入れた袋の中から、衣装を取り出していた。
こよみ「それは……」
こよみさんは蘭さんの取り出した衣装を見て、小さく呟いた。
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